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「黒」シリーズも全作DVD化して欲しい、その2「黒の超特急」

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「黒の試走車」から続いて拝見したのが、「黒の超特急」。
主人公桔梗は株で大失敗した過去を持つ
田舎のしがない不動産屋。ある日そんな彼の元に工場誘致に
まつわる土地売却のおいしい話が怪しげなおっさんによって
持ち込まれます。しかしそのおっさんはそのネタ使って各地で
カモっていた事が判明、見事カモられた桔梗は復讐すべく単身
上京、そこでかなりのワケ有り女と出会い共闘して
ことの真相を探りつつ脅迫もするようになり…。





またこの映画も複雑。何が何でも損したくない、
どんな事してでも金が欲しい!!という登場人物どもの姿が
滑稽通り越して実に哀しいです。ゆすりに手を染める、という
やたらめったらダーティな展開もさることながら欲望に
踊らされるだけ踊らされる縮図が観ててしんどいのです。
主人公は言うに及ばずどいつもこいつもが持つ情念と激情が
行間を読む行為にも似た、けれどここでもえらくスピーディーで
テンポの良い乾いた増村演出が冴えており、観ている間ずっと
そのしんどさに圧倒されます。

終始強気な桔梗が考えるほど物事が上手く進むわけも
無く、ヤクザにしばかれたりもして身動きが取れずに泥沼に
嵌まり込むのにも関わらず生き残ろうと奮闘する姿はあまりにも
痛々し過ぎ。そしてワケ有り女の疲れと共に桔梗は思いっきり
苛立ちをぶちまけて貧乏クジ引くだけ引いた結果、怒りまくるのです。

「得するのは誰だ?!金持ちどもだ!昔なら大名だ!」

「おれたちは百姓町民、頑張っても無理なんだ!」と。

その怒りが辛辣で理に敵っているだけに何も報われる事が
無い、埋められらない落差があるのです。
眉間の皺にまで 怒りが伝染したかのような、無情で、それでも落ち着いた
田宮二郎さんが凄いです!ブチ切れまくりなのにクール!
そして激烈なツバ迫り合いが連発勃発。戦々恐々です。
スリルの度合いと飛び交う現ナマ飛び交う嘘飛び交う疑心暗鬼が
桁違いに。ワケ有り女も桔梗に担がれたり自ら選んだりで
堂々とした出し抜きっぷり。なのにおっさんや大物は彼ら以上に狡猾。
足掻けば足掻くほどどん詰まりに。何とかしてその危機的状況から
脱したい一心で彼らはある賭けに出ますがその賭けがついに
取り返しのつかない事に発展。おっさんと一騎打ち。

観てて嫌気が差すほどです。所詮弱者がのし上がる為には
義務も必要も余裕も何も無いのです。漂う激烈な寂しさと恨めしさ。
謎解きそっちのけ。私は登場人物それぞれが抱える不満や不安に
慄きましたが、その不安や不満を生んだ見えざる敵というか元凶は
変わらぬ欲望と煩悩を生むだけでそれでも突き進むだけしか
能の無かった人間と社会構造そのものなの?とまで思い詰めたので、
闇から闇へ浮かんでは消える、散り散りになった思惑が
とにかく重くて重くて。なりふり構わぬ行動が目立つほど
悲劇の度合いが高まります。オチも不穏な空気満載。
悪夢は続くと暗示していました。終わる事などあり得ない悪夢。
過ぎ去る時と留まる悪夢。まるでどこまでも続く
超特急の線路のように…過ぎた事よとため息もつけないほど
執拗に、いつまでも着いて回る…。

観終わった後、非常に重苦しい気分に陥りました。どちらも
全く一筋縄では行かないお話で暗澹たる気分!とはいえ
娯楽作品としても一級品である二本である事は間違い無し!
そして何より瞼にいちばん残るのは田宮二郎さんのクールで
日本一スーツの似合う超絶スタイリッシュな立ち姿ですー。
田宮スキー大満足。でも、「超特急」のほうが私は好きかも。
それに二本とも白黒映像が冷たくて硬くて私は大好き!!
彼はモノクロのほうがイケメン度数が高まるような
気がしますね。カラーでも勿論すんげーーーーーーー男前ですが…。

余談ですが、この作品でワケ有り女を演じていた
藤由紀子さんは田宮二郎さんと後々御結婚されました。
あんなイケメンに「うちの家内が~」とか言われるんだったら、
私、死んでも良いです(ウソ

「黒の超特急」 主演 田宮二郎、藤由紀子、加東大介 監督 増村保造
by mummiemummie | 2013-03-07 14:55 | 映画(邦画